『牛の問題』 (Problema bovinum) とは、アルキメデスが提示したと伝えられている数学の問題である[1]

『牛の問題』のオリジナルの問題文は、22の対句と44行の詩の形で示されており、シチリアの平原に放牧された、ヘリオスの牛の数を算出する問題となっている[1]。現代的な観点で言えば、あるディオファントス方程式の整数解を求める問題と見なせ、解法としてはペル方程式を解く事となるが、その解は最小解でも\(n\approx7.7602714\cdots\times10^{206544}\text{頭}\)と非常に大きい[2]。十進法での全桁の正確な数字はオンライン整数大辞典のA096151に掲載されている[3]

問題

問題では、白・黒・黄・斑の各色にそれぞれ牡牛と牝牛がいる、全部で8種類の牛の総数を、特定の条件を求める形で求める。白の牡牛をW、白の牝牛をwとし、以下同様にB、b、Y、y、D、dとすると、ヘリオスの牛は以下のような条件を満たす。

\(\begin{align*} W&=\left(\cfrac{1}{2}+\cfrac{1}{3}\right)B+Y \\ B&=\left(\cfrac{1}{4}+\cfrac{1}{5}\right)D+Y \\ D&=\left(\cfrac{1}{6}+\cfrac{1}{7}\right)W+Y \\ w&=\left(\cfrac{1}{3}+\cfrac{1}{4}\right)(B+b) \\ b&=\left(\cfrac{1}{4}+\cfrac{1}{5}\right)(D+d) \\ d&=\left(\cfrac{1}{5}+\cfrac{1}{6}\right)(Y+y) \\ w&=\left(\cfrac{1}{6}+\cfrac{1}{7}\right)(W+w) \end{align*}\)

問題文では、上記7つの条件を提示した後「これを解く事ができる場合、あなたは数学の初心者ではないが、まだ高度なスキルを持つ知恵者とは言えない。」とし、

\(\begin{align*} W+B&=a^{2} \\ Y+D&=\cfrac{b(b+1)}{2} \end{align*}\)

「この条件を満たす場合を解く事で、初めて数学の征服者としてあなたを祝福する。」と述べている。なお、この2条件は、W+Bが平方数、W+Dが三角数である事を示している[2][4]

最初の7条件は、単純な7つの連立一次方程式に過ぎない為、簡単に一般解が求まる。先の連立方程式を解くと以下の通りとなる。

\(\begin{align*} W&=\hspace{0.25em}\cfrac{5}{6}\hspace{0.25em}B+Y \\ B&=\cfrac{9}{20}D+Y \\ D&=\cfrac{13}{42}W+Y \\ w&=\cfrac{7}{12}(B+b) \\ b&=\cfrac{9}{20}(D+d) \\ d&=\cfrac{11}{30}(Y+y) \\ y&=\cfrac{13}{42}(W+w) \end{align*}\)

方程式は7つに対して未知数は8つある為、この解は不定で無数の解を持つ。その最小値は以下の通りとなる。

\(\begin{align*} W&=10366482 \\ B&=\hspace{0.5em}7460514 \\ D&=\hspace{0.5em}7358060 \\ Y&=\hspace{0.5em}4149387 \\ b&=\hspace{0.5em}4893246 \\ w&=\hspace{0.5em}7206360 \\ d&=\hspace{0.5em}3515820 \\ y&=\hspace{0.5em}5439213 \end{align*}\)

従って、最初の7つの条件での最小解は5038万9082頭の牛という事になる。無論、問題文にある通り、これでは "知恵者" とは言えない。なお、最初の4つの解は全て4657の倍数である。

ところで8番目の条件により、kは別の正整数yを含む以下の式を満たさなければならない。

\(W+B=10366482k+7460514k=17826996k=2^{2}\cdot3\cdot11\cdot29\cdot4657k=a^{2} \\ k=3\cdot11\cdot29\cdot4657y^{2}\)

また9番目の条件により、yは以下の式を満たす。

\(\cfrac{b(b+1)}{2}=3\cdot7\cdot11\cdot29\cdot353\cdot4657^{2}y^{2}\)

\(x=2b+1\)とすれば、xとyは以下のペル方程式に書き換えられる。

\(x^2-2^{2}\cdot4657^2\cdot609\cdot7766y=1\)

このアプローチを踏まえ、2条件を満たす牛の総数nは、以下の一般解によって表される。なお、下記の式中のjは不定の正整数であり、最小解の場合はj=1である。

\(n=\cfrac{(w^{4658j}-w^{-4658j})^{2}}{368238304}=\cfrac{(w^{4658j}-w^{-4658j})^{2}}{4657\cdot79072}\\ w=300426607914281713365\sqrt{609}+84129507677858393258\sqrt{7766}\)

ここでwを2乗すると以下の通りとなり、uとvはペル方程式の形に書き換える事が可能となる。この時、vは\(2\cdot4657\)で割り切る事が出来る。

\(w^{2}=u+v\sqrt{609\cdot7766} \\ u^{2}-609\cdot7766v^{2}=1\)

このペル方程式を解く部分が最も困難である。j=1における最小解はおよそ

\(n\approx7.7602714\cdots\times10^{206544}\text{頭}\)

である[2][4]

解の公式

天井関数を用いて、牛の問題の解を与える公式が存在する[5]。最小解はn=1で得る事が出来る。

\(\left\lceil\cfrac{25194541}{184119152}(p+q\sqrt{4729494})^{n}\right\rceil\\ p=109931986732829734979866232821433543901088049\\ q=50459485234315033074477819735540408986340\)

また、総数の最小解Tを得る為の以下の公式も存在する[6]。この式は整数演算のみで構成されており、コンピューターに演算させるのに向いているという特徴があり、家庭用パソコンでも数秒で解を得る事が可能である。例えばMaple又はMathematicaを実行するPentium IIでは演算時間は5秒であった[7]

\(\left[ \begin{array}{r} r \\ s \end{array} \right]=\left[ \begin{array}{rr} a & b \\ c & d \end{array} \right]^{1164} \left[ \begin{array}{r} e \\ f \end{array} \right]\\ \begin{align*} T&=\cfrac{48222351474}{4657}(rs)^{2}\\ a&=9931986732829734979866232821433543901088049\\ b&=392567302329690546856394748066206816187916440\\ c&=30784636507697855142356992218944109072681060\\ d&=109931986732829734979866232821433543901088049\\ e&=300426607914281713365\\ f&=84129807677858393258\end{align*}\)

歴史

『牛の問題』は、紀元前250年頃、アルキメデスがエラトステネスに宛てた手紙において提示されたと伝えられている。1773年にドイツの劇作家ゴットホルト・エフライム・レッシングが、ヴォルフェンビュッテルの図書館で発見し公表した事が、現代において問題が知られるきっかけとなった[2]。この問題をアルキメデスが考案したかについて、レッシング自身は疑問に思っていたが、現在ではアルキメデスが考案したとされている[8]

解のおよその大きさは、1880年にA. Amthorによって初めて求められた。Amthorは解の正確な桁数と、その先頭の4つが7760である事を算出した。正確な解は、コンピューターが登場し任意精度演算が出来るようになる1965年まで持ち越された。Hugh C. Williams、R. A. German、Charles Robert Zarnkeが、ウォータールー大学でIBM 7040とIBM 1620と用いて計算し、7時間49分かけて算出した。1981年にはスーパーコンピューターのCray-1を用いて検算を含め10分で計算を完了し、初めて全桁が紙47枚に印刷された[9]

出典

  1. 1.0 1.1 Gotthold Ephraim Lessing. (1773) "Zur Geschichte und Litteratur: aus den Schätzen der Herzoglichen Bibliothek zu Wolfenbüttel, Zweyter Beytrag." 422-423.
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 H. W. Lenstra Jr. (2002) "Solving the Pell Equation." Notices of the American Mathematical Society, 49 (2), 182–192.
  3. OEIS. "A096151 - Decimal expansion of the 206545-digit integer solution to Archimedes's cattle problem."
  4. 4.0 4.1 Eric W. Weisstein. "Archimedes' Cattle Problem." MathWorld
  5. I. Vardi. (1998) "Archimedes' Cattle Problem." American Mathematical Monthly. 105, 305-319.
  6. Antti Nygrén. (2001) "A simple solution to Archimedes’ cattle problem." Department of Mathematical Sciences,University of Oulu. ISBN 951-42-5932-7.
  7. C. Rorres. Solution (2nd part) The Cattle Problem.
  8. Peter Marshall Fraser. (1972) "Ptolemaic Alexandria." Oxford University Press.
  9. Chris Rorres. Unbundling Computing at The University of Waterloo University of Waterloo.

関連項目

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