恒河沙 (ごうがしゃ) は、日本語の数の単位の1つである。通常、一恒河沙で\(10^{52}\)を表す。
由来[]
恒河沙より先は、全て仏典を由来とする仏教用語である。恒河はガンジス川のGangāを音訳したものであり、沙は砂のことである。つまり恒河沙はガンジス川の無数の砂のような膨大な数を意味するものの、具体的な大きさを与えているわけではない。これは例えば『今昔物語集』3巻3話「無量無辺不可思議那由他恒河沙の国土を過ぎ行きて」などの表現に使われている[1]。
恒河沙が具体的な数の単位として登場したのは『算学啓蒙』からであり、日本語の数の単位としての根拠となる『算法統宗』と『塵劫記』にも掲載されている[2]。
文献による違い[]
一般的に一恒河沙\(=10^{52}\)として使用されているのは、現在の日本で使われている数の単位が『塵劫記』の1634年 (寛永11年) 版に基づいるためである。これは時代や文献によって異なる。
文献 | 著者 | 時代 | 方式 | 大きさ |
---|---|---|---|---|
算法統宗 | 程大位 | 1592年 | 中数万万進 | \(10^{96}\) |
塵劫記 | 吉田光由 | 初版 (1627年) | 万万進 | \(10^{23}\) |
寛永8年版 (1631年) | 中数万万進 | \(10^{56}\) | ||
寛永11年版 (1634年) | 中数万進 | \(10^{52}\) |
『塵劫記』初版では極までは下数で桁が上がっているが、恒河沙より万万進となる。また寛永8年版では極までは万進で桁が上がっているが、恒河沙より万万進となる[2]。『広辞苑』第7版では『塵劫記』を出典としているが、初版の内容については触れられておらず、大きさを\(10^{52}\)、一説に\(10^{56}\)としている[1]。
なお、実際の "恒河沙" 、つまりガンジス川の砂の数は恒河沙よりはるかに少なく、約100垓粒程度 \(\sim10^{22}\) と見積もられている[3]。
使用例[]
- ショートスケールのTen-sexdecillionは10恒河沙に等しく、One-septendecillionは100恒河沙に等しい。
- 怛羅絡叉は『方広大荘厳経』の中にある、具体的な大きさが分かる最大の数であり、10恒河沙に等しい。
- 暗黒物質も含めた観測可能な宇宙の総質量は10恒河沙kg程度であると見積もられている。多くのパラメーターに不確実性があることから、これは非常に荒い見積もりである[4]。
- 非常に大規模な天文現象の現場では、数千万年程度の時間スケールでエネルギーが放出され、合計で恒河沙Jオーダーのエネルギーが放出されたと推定されている。例えばRBS 797 (約30~60恒河沙J)[5]、ヘラクレスA (約300恒河沙J) [6]、へびつかい座超銀河団 (約500恒河沙J) [7]、MS 0735+7421 (約1000恒河沙J) [8]などである。
出典[]
- ↑ 1.0 1.1 新村出 (編者). (2021, 第4刷) "広辞苑 第七版, ごう-が【恒河】 (p968)". 岩波書店. ISBN: 978-4-00-080131-7
- ↑ 2.0 2.1 2.2 高杉親知. (Oct 2, 2002) "無量大数の彼方へ". 思索の遊び場.
- ↑ フィッシュ. (2018, 第2刷) "巨大数論 第2版". NextPublishing Authors Press. ISBN: 978-4-80-209319-4
- ↑ "Mass, Size, and Density of the Universe". National Solar Observatory.
- ↑ K. W. Cavagnolo, et.al. "A Powerful AGN Outburst in RBS 797". The Astrophysical Journal, 2011; 732 (2) 71. DOI: 10.1088/0004-637X/732/2/71
- ↑ P. E. J. Nulsen, et.al. "The Powerful Outburst in Hercules A". The Astrophysical Journal, 2005; 625 (1) L9. DOI: 10.1086/430945
- ↑ S. Giacintucci, et.al. "Discovery of a Giant Radio Fossil in the Ophiuchus Galaxy Cluster". The Astrophysical Journal, 2020; 891 (1) 1. DOI: 10.3847/1538-4357/ab6a9d
- ↑ Shuang-Liang Li & Xinwu Cao. "Constraints on jet formation mechanisms with the most energetic giant outbursts in MS 0735+7421". The Astrophysical Journal, 2012; 753 (1) 24. DOI: 10.1088/0004-637X/753/1/24