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前置き[]

本稿は、ヴェブレンが1908年に著した論文『有限・超限の順序数上の連続増加関数』をもとに、その内容を現代の順序数論・日本語で再構成したものです。

可算な極限順序数に対する基本列の構成は決して自明あるいはカノニカルに決定できるものではありませんが、ヴェブレンは順序数全体に対してひとつの統一的な表記の考察を与え、大ヴェブレン順序数以下の順序数に基本列を与えることに成功しました。

この論文の時点でヴェブレンはその表記を、超限個の引数をもつものとして定義しており、例えば当wikiのヴェブレン階層のページで記されている内容のほとんどはすでにこの時点で完成されていたということは驚くべきことです。

§2ではその内容を基に定義や定理の紹介を、§3では本文中に定義された関数群ϕと今日ヴェブレン関数として知られるφの比較などを行います。

初稿の段階で一通りは書きましたが、内容の拡充は気が向いたら随時行います。

有限・超限の順序数上の連続増加関数(ヴェブレン)[1][]

連続増加関数[]

与えられた順序数上の順序数値関数正規関数(normal function)とは、

  1. ならば。(単調増加性)
  2. 順序数列に対して、。(連続性)

を満たすことを言う。

順序数の集合が内部閉(internally closed)とは、その集合上の点列の極限を、最小上界を除いてすべて持っていることを言う。

定理 1
正規関数について、集合は内部閉。
逆に、順序数の閉集合はその切片によって正規関数を定義する。

証明:
集合は明らかに内部閉。ここで、上の点列に対して、が成り立つような点列が取れる。従って、連続関数の性質からの極限は
従って、その極限はに含まれるか、そうでなければである。以上からは内部閉である。

逆に、順序型がである順序数の閉集合と順序数が与えられたとき、順序型がであるの切片を取って、で関数を定義する。
このとき、ならばであるためは単調増加。さらに、であるため、は連続でもある。


順序数に対して、切片自身と同型になることはないが、その剰余と同型になることはありうる。

任意の剰余が自身と同型になる順序数をself-residualと呼ぶ。すなわち、がself-residualとはが成り立つことを言う。

定理 2
からを求める方法との値が与えられたとき、
それらによって構成される正規関数がただ1つ存在する。
定理 3
正規関数について、が成り立つ。

証明はいずれも背理法によって示される。


導関数[]

以下、を適当な非可算基数として、正規関数はその値域もに含まれるものと仮定する。

が基数であることから、順序数-列に対してが成り立つ。また、同値であるが、部分集合を満たすとき、の濃度はであることが成り立つ。

定理 4
正規関数を満たすような不動点を持ち、不動点の集合は元の定義域と同型になる。

証明:
適当なを取り、ω-列

で定義する。このとき、とおくと、となり、の不動点である。

の不動点の集合をで表す。上述の方法で求まる不動点は、に対して常により大きいか等しいものが取れるため、である。
が内部閉であることを示す。である-列に対して、とおくと、。従っては不動点であり、は内部閉である。
定理1から、不動点を数え上げる正規関数が存在する。このとき、の濃度から、正規関数の単射性からがわかる。従ってであり、ここからを得る。


証明から、正規関数の不動点を数え上げる関数は再び正規関数である。これを第一階導関数(the first derived function of )と呼ぶ。

定理 5
順序数で添え字づけられた順序数の集合の列は、(1)各の部分集合かつ等しい濃度を持つ。(2)各は内部閉。(3)ならば。の3条件を満たすものと仮定する。このとき、ならば、空でない集合が存在して、と順序同型。
定理 6
任意の正規関数について、に対してあるの正規関数が存在して、が成り立つ。


表記[]

記号によって表される超限変数関数は、と書いてあったとき、以下の内容を含意するものとする:

  1. .
  2. について.
  3. 有限個数のを除いて.


導関数の拡張[]

を任意の適当な正規関数とする。

このとき、で、 で定義する。

正規関数に対して定理6で導かれた関数はとなる。ここから、この表記によって構成される関数群が導関数の拡張となっていることがわかる。

定理 7
であるような正規関数であるとき、はそれぞれただ1つの値を決定する。
の正規関数。
定理 8
のとき、
のとき、の正規関数ではない。
定理 9
の正規関数。

とおくと、定理9からこれは正規関数であるため不動点を持つ。
さらに、は新たな関数族を構成し、このプロセスは際限なく繰り返すことができる。

定理 10
正規関数から定まる値のうち、その関数の不動点になっていない数を表す表記の全体をとおく。このとき、に属する表記が表す値について
が成り立つ。


[]

とする。このとき、

・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・

以上から、

はイプシロン数の列。
を満たすの列。
・・・・・・・・・

関数に基づく集合には、以下のような表記が含まれている:

、ただし
、ただし
、ただしはイプシロン数ではなく、
、ただしを満たす。
・・・・・・・・・

これにより任意の順序数は、一部例外を除いて、元の順序数より少ない添字数の表記で、元の順序数より小さい順序数によって記述される。例外となるのは方程式


を満たす順序数で、そのような順序数の集合は内部閉となり、新たな正規関数を定義する。

このによる表記を用いて、より小さい極限順序数について、極限をとするω-列を帰納的に定義することができる。これを基本列と呼ぶことにする。

  1. の場合、その基本列
  2. は極限順序数)の場合、その基本列は、ただしに対して定義された基本列。
  3. の場合、とおく。基本列はによってさらに場合分けされる:
    1. が後続順序数の場合、基本列は
    2. が極限順序数であった場合、基本列は、ただしに対して定義された基本列。
    3. の場合、基本列は
    4. は極限順序数)の場合、基本列は、ただしに対して定義された基本列。
    5. は極限順序数)の場合、基本列は、ただしの基本列。
  4. の場合、とおいて、上記3.と同様に基本列が定められる。
  5. は0でない極限順序数)の場合、基本列は、ただしの基本列。

比較[]

以下、関数群に基づいて定義されたものとする。

以下の基本列[]

以下の極限順序数は、2変数のによって表記される。
が極限順序数であり、表記がに属するとき、以下のいずれかである:

  1. . (A)
  2. . (D,E)
  3. は0でない極限順序数). (E)

基本列はそれぞれの場合分けで以下のようになる:

  1. のとき:
    .
  2. のとき:
    1. ならば、
      すなわち、
    2. は0でない極限順序数)ならば、
  3. は0でない極限順序数)のとき、

Wainerなどの方式との主要な差は、になることである。

を基にした表記[]

今日よく知られているヴェブレン関数は、を基にして、引数を逆順にして、においてに置き換えたものと理解できる。

以外の場合については、上述の内容を使ってと同様に基本列が定義できる。
ヴェブレン関数で定義されているものはおそらくDenis Maksudovによるもので、以下のものとは若干の差異がある。以下で定義するものは上述のϕの定義をほぼそのまま変形したものである。

以下の規則は番号の若いものが優先して適用される。

  1. の場合、基本列は
  2. が極限順序数の場合、基本列はである。
  3. の場合、とする。以下、によって場合分けする:
    1. が後続順序数の場合、基本列は
    2. が極限順序数の場合、基本列は
    3. の場合、基本列は
    4. が極限順序数の場合、基本列は
    5. が極限順序数の場合、基本列は
  4. の場合、として、以下3.と同様。
  5. が0でない極限順序数の場合、

1変数の場合およびの項の和については、別途定義を定める必要がある。


がなすクラスとは、加法で閉じている順序数のクラスであり、すなわちself-residualな順序数のクラスである。と同様に不動点でないの表記の集合をとおくと、すべての順序数は有限個のの項の和によって表現できる。

参考文献[]

  1. Oswald Veblen (1908). Continuous Increasing Functions of Finite and Transfinite Ordinals. Transactions of the American Mathematical Society, Vol. 9, No. 3, pp.280-292.
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