巨大数研究 Wiki
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順序数講座の4回目です。前回は、自然数の定義について「次の数」を定義する方法について話しました。「空集合」つまり「0」の定義と、「次の数」つまり「後続順序数」の定義から、自然数が定義されるということが、前回までのまとめとなります。

これでだいぶ順序数の用語にも慣れてきたので、巨大数論の120ページ「5.1.2 超限順序数とフォン・ノイマンの順序数表記」の最初に書かれている、この段落を読んでみます。

順序数の定義ができたので、まずは有限な全順序集合の順序数、すなわち有限順序数 (finite ordinal) を考えます。有限な全順序集合は、要素の無限降下列を作ることができないので整礎です。全順序集合 A と B がそれぞれ k 個の要素を持つとき(k は非負整数)、順序同型なので同じ順序型を持ちます。その順序型が順序数で、0, 1, 2, 3, ... のように要素の個数 k と等しい自然数(非負整数)で表記します。このように有限順序数が自然数で表記されるため、順序数は自然数を拡張した概念であるとされます。

ここに書かれていることをまとめると

有限な全順序集合の順序型(有限順序数)はその集合の要素の個数と等しい自然数だよ

ということになります。これは、これまでの講座で説明してきた通りですね。ここで「有限順序数」という言葉が出ました。これまでの講座では「自然数」について考えていたということは「有限順序数」について考えていた、ということになります。ここで「有限」という言葉が使われていますが、そもそも「有限」とか「無限」ってなんでしょうか。

日常的には「有限」とか「無限」という言葉はかなり曖昧に使われていますが、無限は「きりがないもの」「限りがないもの」というような意味で使われます。数学では「有限集合」は「要素の個数が有限個であるような集合」を意味します。ここで「要素の個数」というのは、この講座の第2回で話をしたように、0,1,2,3 と数えて 4 個だと数えることができました。有限集合では「数える順番」を変えても同じ個数になりますので「全順序集合」でなくても適当な順番で数えれば、有限集合の要素の個数が決まります。

結局、これまで説明してきた「集合の要素を順番に数えて自然数が定義される」ということは「そうやって自然数で数えることができる集合が有限集合だよ」と、有限集合の定義をしたのと同じことです。

そして、ここから無限集合の世界に入ります。そのように「集合の要素の個数を自然数であらわすことができない集合」が無限集合です。無限集合は、いろいろと「直感と反する」ことがでてきますので、少しずつその扱いに慣れていきましょう。「巨大数論」の、上記引用箇所の続きを読みます。

有限でない順序数を無限順序数(超限順序数) (inifinite ordinal) と言います。超限順序数は、通常ギリシャ文字の小文字で表記されます。最小の超限順序数はωと表記され、自然数全体の集合 N = {0,1,2,3,...} の順序型です。これはカントールが定義した超限数 (transfinite number) の中で最小です。

ここでωはギリシア文字の最後の文字「オメガ」の小文字です。スイスの時計メーカーの「オメガ」は、このギリシャ文字の大文字のΩを使います。ωのギリシャ語の発音は「オ」で、もう一つのοというギリシャ文字と同じ発音となってしまったため、οを「小さなオ」つまり「オ・ミークロン」→「オミクロン」と読んで、ωは「大きなオ」つまり「オ・メガ」→「オメガ」と読んで区別するようになったようです。

上の引用箇所に書かれているように

ωは最小の超限順序数

ということになります。そして、

ωは自然数の集合

です。ここで、大小関係についてはこれまでに定義したように自然数の大小関係が定義されています。この講座で整列集合の話をするときに「自然数全体の集合は整列集合である」という説明から入りました。つまり、ωは整列集合です。このωと「順番を変えないで」一対一に番号を振ることができるような整列集合の順序型が、ωになります。このように定義することで、「順序数は自分自身よりも小さな順序数の集合」であることから、ωよりも小さな順序数は、すべて自然数であって超限順序数ではないので、ωが最小の超限順序数であるということになります。

要素を順番に並べる方法で書くと、すべての要素を書ききることはできないので、

ω = {0,1,2,3,...}

のように、... で省略して書くこととします。

さて、講座の第2回で、順序数とは

  1. 自然数を拡張した概念だよ
  2. 順番に並べたものに番号を振るよ
  3. 無限にあってもかまわず番号を振るよ

という話をしました。この最初の2つ目まではすでに詳しく話をしましたが、ωで超限順序数に入りましたので、3番目の「無限にあってもかまわず番号を振るよ」という話になります。この「無限にあっても番号を振る」ということは、有限の自然数の範囲で番号を振っていたときとは、いろいろと感覚が変わってきます。

たとえば、「正の偶数の集合」を考えてみましょう。これは、{2,4,6,8,...} というように小さい方から並べることができます。この集合に、小さい方から順番に、ω = {0,1,2,3,...} と対応させて番号を振ることができます。こんな感じで対応をつけることができます。

2 4 6 8 ...
0 1 2 3 ...

一般的には、正の偶数の集合の中で 2n+2 という要素に対して、ωの中で n を対応づければ良い、ということになります。このように、「正の偶数の集合」は ω = {0,1,2,3,...} と順番を変えないで一対一で対応づけることが可能なので、順序型(順序数)がωとなります。

ここで、一対一の対応をつけるときに「順番が大事」であるということを、再度確認しておきます。つまり、上の表では偶数を並べる時に「小さい順に」並べています。無限集合になると、「順番を変えると一対一で対応づけができるけど、順番を変えないで一対一で対応づけができない」ような例が出てきます。そのような具体例は後の講座で出しますが、有限集合ではそういったことはないので、「順番が大切」ということは感覚的にわかりにくいところです。ここではあくまでも「順序数がωとなる集合は、小さい方から順番に 0,1,2,... とすべての自然数で番号を振ることができるような集合である」ということを理解しておいてください。

そのような集合は、いろいろな例を考えることができますよね。

  1. 正の奇数の集合
  2. 素数の集合
  3. フィボナッチ数列に出てくる数の集合
  4. 2^n (nは自然数) の集合
  5. e^n (nは自然数) の集合
  6. 3↑↑↑n (nは自然数) の集合
  7. グラハム数よりも大きい自然数の集合

次に、ωの別の定義のしかたについて、いくつか考えてみます。

ωはどのような自然数よりも大きい最小の順序数

まず、「ωはどのような自然数よりも大きい」ということについては、ωはすべての自然数の集合で、それは「ωよりも小さいすべての順序数の集合」でもあるわけなので、すべての自然数はωよりも小さい、つまりωはどのような自然数よりも大きい、ということになります。

それでは、ωがそのような「最小の」順序数である、ということについてはどうでしょうか。もし、ωがそのような「最小の」順序数ではなかったとしましょう。すると、そのような「最小の」順序数をαとします。αにはどのような自然数よりも大きいのですから、αは自然数ではないです。そして、ωはαよりも大きいのですから、ωはαを含みます。すると、ωは自然数ではない要素を含むことになりますから、「すべての自然数の集合」ではなくなってしまいます。結局、ωがすべての自然数の集合であるということは、どのような自然数よりも大きい最小の順序数である、ということと同じことなのです。

(2018/5/3 追記) ここで、そもそも「どのような自然数よりも大きい最小の順序数」が存在するとなぜ言えるのか?という疑問が出るのでは、というコメントがありましたので、補足しておきます。順序数には

任意の順序数α,βに対してα<β, α=β, α>βのいずれかが成り立つ

という三分律と言われる性質があります。上の議論で「自然数よりも大きい最小をαとしたときに、ωがαと等しくなければ、α=ωでもα>ωでもないのでα<ω」というところで、この性質を使っています。このことは、第2回の講座で

2つの数AとBの間の大小関係には

  1. AよりもBが大きい
  2. BよりもAが大きい
  3. AとBは等しい

の3種類があります。全順序集合から2つの要素を選ぶと、この3種類のどれかになります。

として説明した通りです。つまり、順序数は整列集合の順序型であり、整列集合とはそのように大小関係が必ず決まる全順序集合なのだから、大小関係が必ず決まるということです(ただし抽象的に与えられた2つの順序数は共通の全順序集合に属しているかどうかが非自明なので、三分律の証明はかなり大変とのことです)。また、整列集合の性質として「任意の部分集合には最小の要素がある」という性質がありますが、この性質も重要です。たとえば、自然数よりも大きいなんらかの順序数αがあったとして、αの部分集合として自然数よりも大きな要素を選び出した集合を考えると、この集合には必ず最小の要素があるので、それが「どのような自然数よりも大きい最小の順序数」となります。もし整列集合でなければ「〜を満たす最小の順序数」が必ず存在するとはいえないところ、整列集合なのでそのような順序数の存在が保証されます。そのことは、前回の講座でも整列集合は「後続順序数が必ず決まる」という性質があるというところで説明をしたところです。

このように、「~を満たす最小の順序数」という定義はこれからもいろいろと出てきますので、順序数の三分律の性質、そして部分集合には最小の要素が存在するという性質から、そのような順序数の存在を常に考えることができる、ということを確認しておきます。

(追記終)

それでは、「巨大数論」を読み進めて見ます。巨大数論では

数列 0,1,2,3,… はωに収束します。このとき 0,1,2,3,… を、ωに収束する基本列 (fundamental sequence) あるいは収束列と呼びます。ωに対する基本列は1種類とは限りません。たとえば、数列 0,2,4,6,... もωへの基本列となります。

というように、ωを定義しています。ここで「数列 0,1,2,3,… はωに収束します」というのは、実のところ「収束」の定義が曖昧です。これはどういうことかというと、数列の上極限をとっているということで、後に巨大数論183ページの「共終数」のところで、基本列とは共終数がωの順序数αに対するαと共終な部分集合 {α[n]∈α | n∈ω } であると定義しています。これが「基本列が収束する」ということの意味ですが、まだこの考え方は少し難しいので、

順序数の単調増加の数列が順序数αの基本列であるとは、その数列の要素がすべてαよりも小さく、αよりも小さいどんな順序数βに対しても、その数列がどこかで追い越す(βよりも大きくなる)こと

というような感じで理解しておけば良いと思います。それはつまり、その基本列に含まれるどのような順序数よりも大きい最小の順序数がαであると定義している、ということになります。

結局のところ、「ωはどのような自然数よりも大きい最小の順序数」という定義は

ωは 0,1,2,3,… を基本列とする順序数

と定義することと同じことです。

そして、基本列の取り方が一意ではない、というのは、たとえば 2,4,6,8,... という数列であっても、その数列に出てくるどんな順序数よりも大きい最小の順序数をωと定義することができる、ということです。よって、ωの定義には他にも

  1. ωは 2,4,6,8,… (正の偶数)を基本列とする順序数
  2. ωは 2,3,5,7,… (素数)を基本列とする順序数
  3. ωは 1,1,2,3,5,8,... (フィボナッチ数列)を基本列とする順序数
  4. ωは 1,2,4,8,… (2^n)を基本列とする順序数

と、いくらでも同等の定義ができます。

このように、ωを定義するためには「すべての自然数の集合」のように「ある方法で定義ができるような順序数全体の集合」によって順序数を定義する方法と、「0,1,2,3,… を基本列とする順序数」のように、「なんらかの順序数による数列(基本列)を考えて、その上極限としての順序数を定義する」という方法があります。巨大数論では順序数の基本列をFGHに使うことが順序数を導入する大きな理由となっているため、グーゴロジストは順序数を「基本列によって理解する」といった習性があります。この講座では、どちらかというと「ある方法で定義ができるような順序数全体の集合」によって順序数を定義する方法で順序数を定義する方法を中心として、その上で基本列を考えていきます。

順序数の定義については、一つの定義だけでなく「別の角度から見ると、こういう見方もできる」と多角的に見ることで、より豊かに理解できるだろうと思います。そこで、今回の講座でもωをいろいろな方法で定義しています。

ωは最小の極限順序数

これも、ωの定義として成り立ちます。ここで「極限順序数」とは、0でも後続順序数でもない順序数です。自然数は、0と後続順序数だけで定義できるような順序数でした。0以外の自然数は、すべて後続順序数です。そして、0でも後続順序数でもないような順序数を「極限順序数」と言います(0を極限順序数に含める定義もあるようですが、この講座では0を極限順序数に含めない定義を採用します)。

ωは、0でもなければ後続順序数でもありません。なぜ後続順序数ではないのでしょうか?もし、ωが後続順序数だとすれば、ω=α+1となるような順序数αが存在します。このαはωよりも小さいので、自然数です。すると、ωは自然数の次の数なので、自然数になります。ωは自然数ではないので、それはおかしな話です。つまり、ωは後続順序数ではありません。よって、ωは極限順序数です。そして、ωよりも小さな順序数、すなわち自然数の中には極限順序数はありませんから、ωは最小の極限順序数となります。

さて、極限順序数を定義する方法としては、先ほど考えたように「ある方法で定義できるような順序数全体」を考えるか、「数列の上極限」を考えるか、という大きく2つの方法があります。そのように「ある方法で定義できるような順序数全体」を考えるときには、これから導入する「演算で閉じている」という概念が便利です。その概念を使うと、ωを次のように定義できます。

ωは加算で閉じている1よりも大きい最小の順序数

ここで「加算で閉じている」ということについて説明します。加算とは足し算のことです。まだ順序数の足し算を定義していませんが、ここまでは自然数の足し算だけで説明できますので、自然数の足し算で理解をしてください。

足し算とか掛け算のような計算を「演算」と言います。そして、ある集合Aのどんな要素に対してその演算を適用しても,結果がその集合Aに属しているときに、その集合Aはその演算で「閉じている」と言います。たとえば、自然数の集合は加算(足し算)で閉じています。自然数どうしを足し算すると、

  • 1 + 1 = 2
  • 5 + 0 = 5
  • 3 + 2 = 5
  • 23 + 13 = 36
  • 2 + 3 + 4 = 9

のように、必ず自然数になるということです。自然数は、引き算では閉じていません。2-3 という自然数どうしの計算をすると、その結果が自然数ではなくなってしまうためです。整数は引き算で閉じています。自然数も整数も、掛け算で閉じていますが、割り算では閉じていません。「割り切れない数」つまり分数が出てきてしまうためです。自然数は、冪乗、テトレーション、多変数アッカーマン関数といったような演算でも閉じています。

ωは「自然数の集合」なので、加算で閉じています。それでは、ωよりも小さな順序数、つまり自然数で加算で閉じているものにはどのようなものがあるでしょうか。

0 = {} はどうでしょうか。これは、加算をしようにも要素がないのでできませんね。なので「加算が閉じている」というのは変な感じですが、「加算で閉じていない」と言うと「足し算をして集合の要素に属さないような数」があることを意味しますが、そのような具体例はないので「加算で閉じていないわけでもない」つまり「加算で閉じている」と考えることもできます。空集合を「加算で閉じている」とするかどうかは「閉じている」という言葉の定義次第という感じがします。

次に 1 = {0} があります。これは、要素として選べるのは 0 だけです。0+0=0 ですから、1 は加算で閉じています。

2 = {0,1} はどうでしょうか。ここで、集合の要素に 1 が入るので「1を足す」という演算ができるようになります。1+1 = 2 は 2 = {0,1} の要素ではないので、2 は加算で閉じていません。2以上の自然数は、要素に必ず 1 が入っているので、最大の要素に +1 をすればその集合に属さない数となりますので、加算で閉じていません。つまり、ωは「加算で閉じている1よりも大きい最小の順序数」である、ということになります。

今回の講座では、ωの定義をいろいろな方法で書いてみました。

  1. ωは最小の超限順序数
  2. ωは自然数の集合 {0,1,2,3,...}
  3. ωはどのような自然数よりも大きい最小の順序数
  4. ωは 0,1,2,3,… を基本列とする順序数
  5. ωは最小の極限順序数
  6. ωは加算で閉じている1よりも大きい最小の順序数

どの定義が、最も直感的に理解しやすいでしょうか。まずは、直感的に理解しやすい定義でよくωの意味を理解してから、直感的に理解しにくい定義について、結局は同じことなのだと理解できるように、この講座を読み返してみてください。そうすることで、順序数の考え方に慣れていくことと思います。

さて、この講座でいろいろなωの定義を見てきましたが、その中でも「ωは加算で閉じている1よりも大きい最小の順序数」という定義は、特によく理解をしておいてほしいところです。というのは、実はωよりも大きい「加算で閉じている順序数」はいくらでもあり、それがより大きな順序数を定義するときに重要な性質となるためです。「加算で閉じている」ということを理解するためには「順序数の足し算」について、よく理解する必要があります。ここまでは自然数の足し算なのでどんな演算なのかはよく知っていますが、順序数の足し算は自然数の足し算と同じようにはできませんので、次回の講座でそこを詳しくみていきたいと思います。

次回: (5) 順序数の足し算

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